茜空に溶かして

※学パロ






クラスメイトのうちはサスケは、女の子からの人気が高い。
整った顔で背が高くスタイルも良く、勉強も運動も出来る文武両道。そして少し毒舌の入ったクールな性格が、同学年から先輩後輩まで、あらゆる女の子達に受けている。
私の友達であるサクラやいのも、小学校の頃から彼の事が好きなんだそうだ。
他にもサスケくんを好きだと公言している子は山程居るし、声高に宣言しなくとも彼に恋している女子は多い。
告白される回数や、誕生日プレゼントやバレンタインチョコの数だって、他の男子と比にならない。
そんな風にたくさんの女の子を虜にしているサスケくんだが、浮いた話を一切聞いたことがない、というのはサクラの情報だ。
言われてみれば、特定の異姓と特別仲良さげにしている所は見たことがないし、そもそも誰かと連んでいる事自体非常に少ないし、前述のプレゼントやらチョコレートやらも全く受け取らないらしい。
最早幼馴染みと言っても差し支えない付き合いのサクラが言うのなら、それは本当の事なんだろう。
高校生になってからの数ヵ月しか知らない私からすれば、あれだけモテてるのにそんな筈ないとか、実は隠れて誰かと付き合ってるんじゃないかとか、色々と無粋なことを考えてしまうのだけど。
わざわざ本人に確認を取った訳ではないので噂や予測の域を出ないが、少なくとも学校での様子を見る限り、うちはサスケという人物は、色事にはてんで興味がないようだった。


さて、これだけ長々とうちはサスケについて考察してみた訳だが、私は彼を恋愛対象として見ていない少数派の人間である。
確かに容姿や仕草が格好良いとは思うけれど、あくまでも思うだけ。
目の保養として見る分には良いが、彼にそういった類いの好意を抱くかと問われれば、私の答えはノーである。
どちらかと言えば、私はある程度仲良くなって長所も短所も知っていくうちに気付いたら好きになっているタイプだ。つまり、友達から恋愛に発展するタイプ。
だからただのクラスメイト止まりな彼を、いくらイケメンだからと言って恋愛対象として見る可能性は、限り無く低い。
そして当然それは、彼にしたって同じだろう。
校内一と持て囃される程のイケメンであるうちはサスケが、挨拶すら交わしたこともないような目立たない一クラスメイトをそんな目で見ているとは思えない。
というかそもそも、私の存在を認識されているのかどうかも怪しい。
だから私は、同じクラスである今も、この先の学校生活も、彼と関わる事なんてある筈ないと思っていた。
思っていた。のに。






「……あの、うちはサスケ、くん?」
「なんだ」
「いや、なんだって…その…これは、いったいどういう状況、なんでしょうか?」
「見てわかんねーのかよ」
「いや、わかんねーっていうか、理解が追い付かないというか…わ、私、なんでこうなってるんですか」


突然の接触に動揺している私に、彼はさも当然だろうとでも言いたげに溜め息を吐いた。
いやいやいや、そんな顔されても、分かる訳ないでしょうよ。
私は今まで、放課後の教室で一人、数学の課題をこなしていたはずだ。
それなのに、何がどうなって、サスケくんに押し倒される状況になったというんだ。
そう、どうして私は、うちはサスケに押し倒されてる訳!?
昨日まで、ていうかついさっきまで、私たち話したこともなかったよね?ただのクラスメイトだったよね?
たとえば君がギャルゲの主人公なら、私はせいぜい名前も顔グラもないクラスメイトEくらいなもんだよね?
なのに何故、いつの間に、私は攻略可能ヒロインポジをもぎ取っていたんだろうか。


「…っていうか、サスケくんが私の事を認識していた事にびっくりだわ」
「は?同じクラスなんだから当たり前だ。それに、好きな女のことを知らない筈ないだろ。お前には俺がそんな馬鹿に見えるのか、ウスラトンカチ」
「ごめんなさい見えないですそうだよね同じクラスだもんね好きな女だもんねすいませ……ん?」


思わず漏れた呟きを拾ってぎろりと睨むサスケくんに怯えて謝罪を捲し立てたところで、やっとそのとんでもない発言に気付いた。




「す……好きな、女…?」


もう一度復唱してみるも、やはりおかしい。
好きな女?誰が?誰の?
こいつはいったい何を言ってるの?




「俺はお前の事が好きだ、ナマエ」


まさか頭がおかしくなったのか。
天下のうちはサスケが拾い食いでもした?
大蛇丸先生の怪しい実験の餌食になった?
それともナルト達と罰ゲームでもしてるの?
考えられる可能性を全て述べてみたけれど、それらは全てサスケくんに否定されてしまった。
そうでないなら、この状況はいったいなんだというんだ!


「だって、まさか…冗談でしょ…?」
「冗談じゃねえ」
「っ…や、だなぁ、もう!さ、サスケくんも、そういうふざけ方するん、」
「ふざけてねえ!」


サスケくんの荒げた声が耳を裂く。
驚いて顔を上げれば、苦しげに顔を歪めたサスケくんが、私を見下ろしていた。


「ふざけてなんかねえ。俺は、本気でお前が好きなんだ」
「そ…んなの、嘘、でしょ…?」


信じられない。
小さく呟いた言葉は、彼に届いているのだろうか。
数秒、いや、数十秒は経ったか。静寂に包まれた教室で、返事のないまま見つめ合う。
ねえ、どうして、そんな辛そうな顔をするの。
あなたはいったい何を考えているの。
どうしてそんな真剣な目をしているの。
わたしはどうして、こんなにもどきどきしているの。
二人分の吐息と鼓動だけがやけに大きく聞こえて、私を射抜く黒い瞳がぎらりと赤く光る。
燃える夕日に染められたサスケくんの顔が落ちてきても、私は動くことが出来なかった。
だって、その動作は、まるで息をするように、あまりにも自然で。

だから、キスをされたと気が付くまでに、僅かに時間を要した。




「これで、信じたか?」
「…は、え、なっ…」


すぐに離された其処は、気付いた途端に熱を持ち始める。
まるで焼けた鉄でも押し付けられたようにじんじんと熱くて、まるで蜂蜜を塗りたくられたかのように甘い。
思考がショートして、ただ口をパクパクさせている私に、サスケくんはもう一押しの追い討ちをかけた。




「好きだ。俺はお前が、ナマエが好きだ」


まっすぐ真摯な瞳が、戸惑う私を射抜く。
その言葉は、まるで疑うことを許さないとでも言うかの如く、私の胸に刺さって浸透していった。

彼はいつだってクールで、女の子達の憧れの的で、だけど誰が好きだとか付き合ってるとか、そんな浮わついた噂も素振りも全くなくて。
一度も話したこともない私には、全く縁のない人だと思っていた。
あなたの恋愛対象に私が入る筈がなくて、私の恋愛対象にあなたが入る筈もないと、そう思っていたのに。




「だから、ナマエ、俺のもんになれ」


その言葉ひとつで、私のすべては覆され、あなたの瞳に呑まれてしまったのだった。










茜空に溶かして


(あ、私、落ちた)